青春シンコペーション


第2章 キャッチされた僕(3)


一週間が過ぎた。井倉も新しい暮らしに大分慣れて来た。ハンスは午前中はトレーニング。午後は曜日によってピアノ講師としての仕事をしている。作家である美樹は深夜かハンスが出掛けている朝の間に原稿書きの仕事をしているようだ。確かに美樹が言っていた通り、ハンスは自分が空いている時はいつも彼女の傍にぴったりとくっついて離れようとしなかった。
(これじゃ確かに仕事どころじゃないだろうな)
井倉は思った。それに、この家ではやたらに来客が多い。客の接待だけでも大変だ。それを美樹が独りでこなしている。井倉はこれからはその役は自分がやると言って彼女を休ませた。彼女が連日寝不足で赤い目をしていたのと、こっそり鎮痛剤を飲んでいたのを見たからだ。

「少し休んでください。僕にもお茶くらい淹れられますから……。無理をすると身体によくありませんよ」
「井倉君……」
「それに、体調が悪くてはいい作品が書けないでしょう?」
「ありがとう。それじゃお願いするわ」
美樹が頷いてくれたので、井倉はほっとして彼女から接待を引き継いだ。

(それにしても何てお客さんの多い家なんだろう)
井倉は相関図を作って驚いた。二人それぞれの友人、知人、美樹の両親や仕事の関係者。ハンスの教室の生徒や父兄。音楽関係者。それに、定期的にやって来るクリーニング屋や花屋。中には外国人の客もいて、焦ったが、大抵は日本語で通じたので助かった。

(そういえばハンス先生ってあまりピアノを弾いているところを見ないな)
空いている時にはいつでもピアノを弾いてもいいと言われた。が、子ども達のレッスンがある時以外、ピアノの前にハンスがいるのを見たことがなかった。
(外で弾いてるのかな? 先生はよくトレーニングに行くと言って出掛けているけど……)
しかし、それとなくハンスに訊くとそれはジョギングや筋トレなどの基礎体力作りに費やしていると言う。
(ピアノを弾くためにも筋肉を鍛えるのは大事だろうけど……)
納得がいかなかった。それに、ハンスを訪ねてやって来る者達の中には何処か独特の空気を持っている者が多い気がした。単に音楽関係者というより、何か別の繋がりがある。そんな気がした。

「あ、井倉君、今日は2時にルドルフが来るからコーヒーはブルーマウンテンを入れてくれる?」
美樹が言った。
「わかりました」
「濃いブラックが彼のお気に入りなの。豆は左側の棚の2段目にあるから……」
「はい。あの、ルドルフっていうとドイツの方ですか?」
「ええ。ハンスのお兄さん」
美樹の言葉に井倉は少し驚いた。
「え? ハンス先生にはお兄さんがいらしたんですか?」
「そうなの。でも、二人まるで似ていないのよ。見た目も性格もね」
「はあ」
「まあ、会えばわかると思うけど……」

そうして、それがどんな人物なのかはすぐにわかった。呼び鈴が鳴り、井倉が扉を開けると、そこに背の高い男が立っていた。淡い金髪に白いジャケット。アクション映画にでも出て来そうなクールな男だった。
「あの、はじめまして。僕、井倉と言います。今度、ハンス先生のご好意でこちらのお宅で厄介になっています」
「ルドルフ バウアーだ。よろしく。君のことはハンスから聞いている」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
その雰囲気に圧倒された。

(確かにハンス先生とは全然違うタイプだな)
井倉はそそうのないように注意しながら男にコーヒーを運んだ。
「ありがとう」
と彼は言ったが、言外に席を外せという命令が含まれているのを感じた。
(何だか怖そうな人だな)
ルドルフは語学講師をしていると美樹から聞いていたが、進んで授業を受けたいという感じではなかった。


キッチンに戻ってトレイを片づけると井倉はふとそこに飾られていた一輪ざしの薔薇に目を止めた。
(彩香さん、どうしてるかなあ)
赤く凛と取りすました薔薇は何となく彼女に似ていると思った。

――ここに来たのは偶然よ。つけ上がらないで

(あれから何の連絡もない……。いいや、彼女から連絡がある筈がない。だからと言って僕の方から彼女に連絡するなんてできないし……)
今になれば、大学に通っていた頃が自分にとっては何よりも大切で、最も幸福な時だったのだとしみじみ思った。

――井倉、飲み物を買って来て

彼女の表情もちょっとした仕草も彼は見逃すまいと思った。そして、誰よりも彼女の近くでそれを見ていた。

――何をしてるの? 愚図! 早くなさい

たとえどんなに叱責されても、勝気な彼女の瞳が好きだった。井倉はふっとため息をついて、花の水を換えようと花瓶を持った。するとその茎はくるりと半回転し、花は井倉に背を向けた。


ルドルフは30分もしないうちに玄関を出て行った。そして、あとに残ったハンスが井倉をリビングへ呼んだ。
「はい、先生。何でしょうか?」
彼が恐る恐る訊くとハンスはソファーに掛けたまま、指で軽くテーブルを叩いて言った。
「井倉君、ピアノの練習はどうしましたか?」
「はい。お邪魔にならないように、午前中、先生がトレーニングに出掛けている間に弾かせてもらっていますけど……」
「それだけですか?」
「あ、はい。でも、ハノンとツェルニーの50番は弾いてます。ただ、二階で美樹さんがお仕事しているのであまり大きな音を立てない方がいいのかと……」
「わかりました」
言うと、ハンスはおもむろに立ち上がり、その足で二階へ行った。そして、美樹を呼んで来た。

それから、二人の前でぴしりと言った。
「井倉君、君はピアニストを目指している。そうですね?」
「はい」
「ならば、自分がどうしたらいいかわかる筈です。この際、美樹にもはっきりと言っておきますけど、井倉君はピアニストになる子です。彼がきちんと練習できるようにしてあげないといけません。君がパソコンに向かってお仕事をすることが大切なように井倉君はピアノを弾くということが大切なんです。わかりますか?」
いつになく厳しい口調でハンスが言った。

「そうね。ごめんなさい。井倉君がやさしいことを言ってくれるものだからつい、彼に甘えてしまって……これからは気をつけるわ」
美樹が応える。と、ハンスは呆然とした表情で彼女を見つめた。
「Oh! Nein! 何てことだ。いけません。甘えるなら僕だけにしてください。他の人に甘えたりするの、僕許しません」
彼女の両肩に手を乗せて真剣な顔をしているハンスに、美樹はどう応えようか迷っているようだった。
「あの、ちがうんです」
慌てて井倉が弁解する。
「誤解です。さっき言ったのは僕が勝手に思い込んでそうしただけで、美樹さんには何の関係もありません。だから、彼女を責めるのはやめてください。すべての責任は僕にあるんです。僕が妙に気を回してしまったばっかりにかえって迷惑を掛けてしまいました。本当にすみません」
井倉が深く頭を下げた。

「いいのよ、井倉君。あなたのやさしさは、ハンスだってちゃんとわかっているのだから……。ね? そうでしょう?」
彼に向けて美樹が問う。
「はい。確かに、井倉君はやさしいです。いいえ、やさし過ぎるの問題です。それで僕は心配なんです。いい子過ぎると、この世界ではやっていけません。チャンスはしっかりと自分の手で掴まなければどこかへ逃げて行ってしまいます。それから後悔しても遅いです。僕はいつもそうでした。だから、井倉君にはチャンスを逃がして欲しくないです。たとえ1歩でも人よりも前に出て、チャンスを捕まえてください」
「先生……」
ハンスはどこか遠い目をして言った。

「わかりました」
井倉が頷く。
「そうね。確かにハンスの言う通りだわ」
美樹も言った。
「家に来たせいでピアノの練習ができなくなってピアニストになり損ねたなんてことにはなって欲しくないもの。これからはお手伝いさんのようなことなんかしなくていいからね。思う存分練習して、悔いが残らないようにしてちょうだい」
美樹が笑顔で励ました。
「は、はい。頑張ります」
そう言ったものの、井倉は二人の顔を見比べて続けた。

「でも、家の手伝いはこれからもやらせてください。今まではバイトをして、家事だってしていました。それに今は音大にも通っていないのだから、時間は十分にあるんです。そうしてもらわないと僕自身の気持ちも済みませんので……。それだけはお願いします。練習はきちんとします。だから、美樹さんを叱ったりしないでください」
井倉の言葉に、ハンスは驚いて言い返した。
「当然です。僕がそんなことする筈ありません。僕はこんなにも美樹ちゃんを愛しているんですから……」
そう言うとハンスは彼女を抱き締めてキスした。
「あ、はい。そうですね」
井倉は視線を泳がせて頷く。
「それじゃ、僕、早速練習させていただきます」
そう言うと井倉はいそいそとピアノの前に駆けて行った。

「あ、待って、井倉君」
それを、いきなりハンスが止めた。
「何ですか?」
彼が振り向く。
「実は今日、とてもいい物が届いたんです」
ハンスがにこにこと言った。
「いい物ですか?」
井倉が首を傾げる。と、ハンスがソファーの脇に置かれたダンボール箱を開けて何かを取り出した。それは午前中に宅配便で届いたばかりの物だった。

「ほら、これです。すごいでしょう? 井倉君も一緒にやりましょう」
ハンスがその箱を持ってにこにこと言った。
「それってあの、かるたですか?」
井倉が訊いた。
「はい。これが動物かるたで、こっちがお星さまかるたです。井倉君も早くこっちに来てやりましょう」
ハンスが笑う。
「え? でも先生、ピアノは……」
困惑している井倉に彼は言った。

「そんなのいつでも弾けますよ。ピアノは逃げたりしませんから……。それより早くこっちに来てください」
井倉はますます困った顔をした。と、そこに美樹が来て囁いた。
「彼、今丁度ひらがな覚えてるところなの。それでかるた遊びに夢中になっちゃって……。新しいのが来たものだから我慢できないのよ。悪いけど少しだけ相手をしてあげてくれない?」
「それはいいんですけど……」
「ありがと。あ、それから彼、まだ文字を見分けるのが難しいの。ちょっと手加減してあげてね。というか彼に勝たせてあげて欲しいのよ。でないと泣いちゃうから……」
「え?」
井倉は驚いて彼女の顔を見た。その時、ハンスがこちらを見たので美樹は目だけで合図するとハンスに向かって言った。
「わかった。すぐに行くわ」

(日本語か……。確かに覚えるの大変だろうな)
井倉は何とか先生を立てなければと気をつかった。
が、ハンスはすぐそこにある札に気がつかず、何度もちがう札を取ろうとするし、井倉がもたもたしているとわざとじゃないかと疑いを持って追及して来るので緊張状態が続いた。
1時間20分掛かってまだ取り札が半分残っている。あまりにも進まないのでハンスの関心はもう別の方へと移っていた。


ハンスが2階に行ってしまったので、井倉は夕飯までの間、ピアノの練習をすることにした。
「ここは広くていいな」
ピアノを置いたらいっぱいだったアパートとは違い、ここでは仕切りのないリビングの片隅にインテリアのように置かれている。吹き下ろしの窓からは海が一望できるゆったりとした空間が広がり、花と木の温もりが伝う。世の中にはこんな暮らしもあるのだなと思うと少し羨ましくもあった。

――彼、日本に来たばかりの頃、事故に遭って子どもの時のことしか思い出せなくなっていたの。だから、今もその後遺症で……

不意に美樹の言葉を思い出した。
(あの二人、幸せそうに見えるけど、きっと人には言えない苦労があるんだろうな)
世の中、何の苦もなく満ち足りた生活を送っている者などいない。誰にでも多かれ少なかれ悩みや苦しみはあるのだ。それからいったら、自分はまだ十分に恵まれていると井倉は思った。
(そうだ。僕は恵まれている。これまでいろんなアクシデントやトラブルはあったけれど、今はこうしてハンス先生のお宅でピアノを弾かせてもらっている。それ以上何を望むというんだ。ピアノ以外の一体何を……)
憂いに満ちたメロディーが夕日の射し込む部屋に溢れた。

「今のはすごくいいですね」
いつの間にかハンスが来て言った。
「先生……」
「どうぞそのまま続けてください」
そう言うと彼はソファーに腰掛け、星座のカードを並べ始めた。井倉はまた静かに曲を弾き始める。憂愁に満ちたトロイメライを……。

「ところで井倉君。僕は明日、音大へ行くのですけど……」
夕食のあとでハンスが言った。もう一度黒木と共に井倉の復学について大学側に交渉するというのだ。
「井倉君も一緒しますか?」
「はい。でも、いいんですか? 僕が同行しても……」
「井倉君の問題なのだから構わないでしょう」
ハンスは言った。


そして翌日、黒木と三人。理事長と面談することになった。
久々の音大はひどく懐かしい気がした。井倉はふと彩香がいないかと周囲を探した。しかし、今はまだ講義中の時間である。彼女がそこにいる筈がなかった。それでも、彩香の面影を探してしまう自分がもどかしかった。彩香が歩いたエントランス。友人達に囲まれて談笑していた円形のソファー……。今となっては何もかもが懐かしかった。
(彩香さん……)
もう一度会いたいと願った。せめて教室の窓から姿を見るだけでも……。しかし、彩香がいる教室の前を通ることはなかった。

「井倉君、心配していますか?」
ハンスが訊いた。
「あ、いえ……」
井倉は答えた。が、その声には力がなかった。
「大丈夫。僕が付いています」
そう言ってハンスは井倉の手を強く握った。それで井倉ははっとした。
(何を考えていたんだろう。今は僕自身が大学に戻れるかどうかが懸かっているのに……。ハンス先生も黒木教授もそのために貴重な時間を割いてくれているというのに……。僕はどうして……)
応接室で待たされている間も井倉はずっと俯いたままそんなことを考えていた。


そして、5分後。理事長が来て言った。
「残念ですが、一度退学した者の学籍を元に戻すことはできません」
「しかし、彼の場合は本人の不手際という訳ではありません。単位も何とか取得しておりますし、性格も真面目で努力の跡が見られます。どうか例外という形でも構いませんので配慮していただけませんか?」
黒木が言った。が、理事長は動じない。
「先日の教授会でも申しました通り、例外は認めないと決定した筈です」
「そこを何とか……」
黒木が頭を下げる。井倉はそれだけで胸が熱くなった。
「黒木さん、頭をお上げください。他の誰でもないあなたの頼みならば私とて何とか力になりたいと思いますよ」
「それなら……」
しかし、理事長は冷たく言った。

「今回の件はいけません。いくら本人が良くても父親が犯罪者ではね」
「父は犯罪者ではありません」
井倉が言った。
「ほう。借金を踏み倒して逃げ隠れするのは犯罪じゃないとでもいうのかね?」
「それは……」
井倉は言葉に窮した。
「聞くところによると君も暴力組織とのトラブルを抱えているというじゃありませんか。まあ、所詮、蛙の子は蛙。どうせくだらない遊びにでも手を出して借金に追われて逃げるのがオチでしょう。父親と同じようにね」
「違います」
井倉が言った。

「確かに父は借金をしたかもしれない。けど、それは仕事の経営の問題で、自分の道楽のためにそうなったのではありません。取引した相手に騙されて……それで」
「黙りなさい! 理由はともあれ一度トラブルがあったということは今後も繰り返すかもしれない。うちは名門なんですよ。周知の通り、大会社や財閥のご子息や令嬢ばかりをお預かりしている。何かあったらそれこそ本校の名に傷がつく。メッキは禿げ易いということだ。諦めなさい。所詮君は我が校の校風には馴染めなかったということだ」
「才能がある子なのに?」
ハンスが言った。
「才能だって? ははは。才能がある学生などそう滅多におるもんじゃないよ」
理事長があからさまな嘲笑を浮かべる。

「へえ。それじゃあ、この大学には才能ある学生は一人もいないとおっしゃる?」
ハンスが皮肉に笑う。
「失敬な! うちには有住彩香という天才がいるんだ。彼女はかの有住財閥の令嬢であるだけでなく、ピアノの才能に特化した美姫だ。次の夏のコンクールでも優勝間違いないと目されている。彼女こそがこれからの日本、いや世界のクラシック界をリードして行く。そんな彼女と比べようもないだろう」
「何故そう言えるんですか? まだ試してもないのに……」
ハンスが訊いた。

「はは。そんなこと自明のことだろう。黒木君、当然そう思わんかね? 彩香君に比べれば、ここにいる井倉など拾う価値などない屑だと……」
「屑……」
井倉はショックだった。確かにあの彩香と比べれば自分はその足元にも及ばないと自覚していた。しかし、そこまで蔑まされる必要があるのかと、井倉は理事長に問いただしてやりたいと思った。しかし彼は口にしなかった。軽く拳を握り唇を噛んだだけで……。が、耐えられなかった者がいた。黒木だ。教授は拳でテーブルを叩く勢いで言った。

「理事長、その言葉取り消していただきたい。私が教えている学生は皆将来のある原石の光を持つ者ばかりです。無論、ここにいる井倉もです。私は信念を持って学生に指導してきました。それを否定し、信頼を踏みにじるようなことは許さない」
「黒木君……」
「それにいつ、井倉君の方が彩香さんより劣っていると決めたんですか?」
ハンスも詰め寄る。
「まあまあ。お二人共落ち着いてくださいよ。私は何も嘘を申し上げてはいませんよ」
「信じてないようですね。それならば」
ハンスが立ちあがって宣言した。

「次のコンクールで井倉君を出します。そこで彩香さんとどちらが上か決着をつけましょう」
それには居合わせた皆が驚いた。
「せ、先生」
井倉がたじろぐ。
「本気なのかね?」
「もちろんです」
ハンスはきっぱりと言い切った。
「コンクールまではあと1カ月しかないのだよ。その間に何ができると?」
「井倉君を優勝させてみせます」

「ははは。馬鹿馬鹿しい。できるものならやってみせてくれたまえ。もし、あの彩香さんを破って井倉が優勝できたなら、大学への復学を許しましょう」
理事長が言った。
「本当ですか?」
ハンスが訊いた。
「ああ。できるものならね」
明らかに理事長は信じていない。だが、ハンスは井倉の肩を叩いて言った。
「よかったね。井倉君。これで大学に戻ることができますよ」
「は、はい……」
一応そう返事はしたものの、井倉は絶望的な気持ちになった。しかし、それを聞いていた黒木も言った。

「わかりました。私も全面的に協力しましょう。よろしいですね? 理事長」
「はは。どんなことをしたって無理に決まっている。黒木さん、あなたご自身がコンクールに出るっていうなら別ですがね」
「いや。必ず1カ月で仕上げて見せる」
「そうです。僕に任せてください。必ずコンクールで優勝して、彩香さんより井倉君の実力の方が上だと証明してみせましょう」
黒木とハンスは共に手を握った。
(そ、そんな……絶対無理……)
井倉は心の中で悲鳴を上げた。